FIELD WARDEN

第1章 欠番の宿場町

1-9 荷の中の名

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誰も、すぐには木箱に触れなかった。

赤紐で押さえられた布の下から、浅い息の音だけが聞こえている。風が門の隙間を抜け、灯りの火を小さく揺らした。

若い下働きは荷車の横で固まっていた。年上の男は、木箱ではなく外套の男を見ている。どう動けばいいかを、自分で決める気はないようだった。

外套の男は、まだ手綱を放していない。

門番は箱を見て、次にリオを見た。

リオは木箱の前から動かなかった。サナは控えを抱えたまま、半歩後ろに下がっている。女将はユイの前に立っていた。

ユイは、もう箱を見ていなかった。

自分が見られたことを、遅れて理解している顔だった。

ここで箱を開ければ、荷ではなくなる。

誰もが、それを分かっていた。

門番は、もう一度だけ木箱を見た。

「開けろ。今ここで」

若い下働きは、箱にかけられた赤紐を見たまま動かなかった。年上の男も同じだった。どちらも、開けることそのものより、開けた後に残るものを恐れているように見えた。

門番が若い下働きへ灯りを向けた。

「お前が開けないなら、こちらで開ける」

「門番が勝手に」

「署名のない荷を門から出す方が勝手だ」

門番は槍を壁に立てかけ、片手で赤紐をつかんだ。

リオが静かに言った。

「紐は切らないでください。結び目を残します」

門番はリオを見た。

「面倒だな」

「後で、誰がどのように結んだか確認できます」

「なら、お前がほどけ」

門番は一歩下がった。

リオは膝を折り、赤紐の結び目に指をかけた。強く締められていたが、切らなければ外せないほどではない。荷を運ぶための結び方ではなく、見た目を整えるための結び方だった。

サナが小さく息を呑む。

「荷札、外れかけてる」

リオは手を止めた。

札は布の端に通されていた。表には、赤屋根亭廃材、と書かれている。裏は見えない。

「サナさん、確認を」

サナが近づいた。

若い下働きが一歩出ようとしたが、リオが視線を向けただけで止まった。

サナは札に触れず、灯りの角度を変えた。

「裏に、何かある」

「読めますか」

「一部だけ。南方……預け、かな。あとは擦れてる」

門番が眉を寄せた。

「廃材に預け先がいるのか」

誰も答えなかった。

リオは紐をほどいた。布を押さえていた力がゆるみ、箱の蓋が少し浮いた。中から、浅い呼吸の音が近くなった。

ユイが布袋を握りしめる。

女将が低く言った。

「まだ前に出るんじゃないよ」

「……はい」

ユイは頷いた。

今度は声を出さなかった。

さっき、自分の声が誰に届いたのかを、もう分かっていた。

リオは蓋に手をかけた。

「開けます」

門番が頷いた。

蓋は軽かった。釘は打たれていない。内側には薄い布がかけられ、隙間から空気が入るように片側が少し削られていた。

人を死なせないための細工だった。

人を守るための細工ではない。

布をめくると、少女がいた。

膝を抱えるようにして横向きに詰められ、肩には古い外套がかけられている。顔は汚れ、唇は乾いていた。目は開いているが、灯りをまともに見られない。右手の甲には、薄く引きつれた古い傷があった。

ユイは息を止めた。

けれど、声は出さなかった。

女将の背中の向こうで、布袋を握る手だけが強くなった。

リオは箱の中へ手を入れず、まず少女の顔の前で手を止めた。

「聞こえますか」

少女の目が少しだけ動いた。

「水は飲めますか」

返事はなかった。唇がわずかに動く。

「サナさん、水を」

サナは我に返ったように頷き、腰の水筒を出した。

リオは布を湿らせ、少女の唇に当てた。少女は最初、反応しなかった。二度目で、ほんの少し水を吸った。

門番は箱の中を見て、短く息を吐いた。

「廃材ではないな」

女将が言った。

「見れば分かるよ」

門番は若い下働きたちを見た。

「担架を持ってこい」

若い方は顔を青くしていた。年上の方は目をそらした。

若い下働きは動かなかった。

「聞こえなかったか」

「俺は、中身を知らなかった」

声が震えていた。

門番は表情を変えなかった。

「なら、今知った。担架を持ってこい」

若い男はようやく動いた。

年上の男はまだ立っていた。

リオはその男を見た。

「封を確認した方の名前を知っていますか」

「知らない」

「荷を誰から受け取りましたか」

「上からだ」

「上とは」

男は答えない。

サナが控えを抱え直した。

「町財務副役ですか」

男の目が一瞬だけサナを見た。

サナはそれ以上言わなかった。

リオはその反応を見たが、追わなかった。

今、優先するべきものは箱の中にある。

外套の男が、一歩下がった。

リオはその足音を聞いた。

追える距離だった。

けれど、少女はまだ箱の中にいる。ユイはすでに見られた。サナも女将も、この場にいる。

リオは外套の男を追わなかった。

外套の男は、馬の手綱を取った。急いではいない。逃げる者の足ではなかった。今夜の荷を諦めただけの動きだった。

門番が言った。

「おい、待て」

外套の男は止まらない。

「受け取り名を書けと言った」

「受け取っていない」

「来ていた」

「道を間違えただけだ」

門番は舌打ちした。

「便利な道だな」

外套の男は答えなかった。

馬にまたがる前、彼は一度だけユイを見た。

リオはその視線を遮るように立った。

だが、もう遅かった。

ユイは自分が見られたことを理解していた。布袋を握る手が、白くなっている。

外套の男は暗がりへ下がった。

サナが小さく言った。

「追わないの」

「今は、追いません」

「逃げるよ」

リオは外套の男が去った方角を見た。

「逃げた先があります」

サナは何か言いかけて、やめた。

担架が運ばれてきた。

古い木枠に布を張っただけのものだった。門番と若い下働きが箱の横へ置く。若い男は箱の中を見ないようにしていた。

リオは少女に声をかけた。

「これから箱から出します。痛む場所があれば、手を動かしてください」

少女の指が、ほんの少し動いた。

「分かりました」

リオは外套をずらし、肩と膝の位置を確認した。無理に立たせれば倒れる。担架へ移すには、腕を支える必要がある。

女将が言った。

「私が持つよ」

「腕をお願いします。強く引かないでください」

「分かった」

サナも控えを置いた。

「足は」

「お願いします」

ユイが一歩出かけた。

そこで止まった。

リオは見ずに言った。

「ユイさんは、そこにいてください」

「……はい」

少女を箱から出す時、布の下から小さな包みが落ちた。

サナが拾い上げようとして、止まる。

リオが先に見た。

古い布切れだった。端に、片翼の鳥の刺繍が少しだけ残っている。完全な印ではない。切り取られ、擦れ、何度も握られた跡があった。

女将が低く言った。

「持ってたんだね」

少女の手が、その布へ伸びた。

リオは拾い、少女の手元へ戻した。

「これは、今は預かりません」

少女の指が布を掴んだ。

担架に移されると、少女は目を閉じた。眠ったわけではない。光と人の声から逃げるような閉じ方だった。

門番が詰所の方を示した。

「運ぶぞ」

詰所へ向かうことになった。

ユイは女将の後ろにいた。

前に出るつもりはなかった。

ただ、担架が動いた時、毛布の端から少女の右手が落ちた。

細い指。

甲に残る、古い傷。

半年前、薬を届けた時に見た手だった。

ユイは息を止めた。

声は出さなかった。

南門で、自分の声がどこまで届くかを知ってしまったからだった。

担架は詰所の中へ運ばれた。

壁際に古い机があり、毛布が二枚積まれている。火鉢には小さな炭火が残っていた。門番は担架を床に下ろし、毛布を一枚取った。

「ここで長く置く場所じゃない」

「分かっています」

リオは少女の呼吸を確認した。浅いが、乱れは少し落ち着いている。

「水を少しずつ。食べ物は急がないでください」

門番は若い下働きを見た。

「聞いたか」

若い男は頷いた。

「はい」

「お前はここに残れ」

「俺が?」

「中身を知らなかったんだろう。なら、今から知っておけ」

若い男は何も言えなかった。

サナは詰所の机に控えを広げた。

「南方引き渡し控え、破損控え、差し替え済み処理。全部、ここに写しておく」

リオは頷いた。

「原本は動かさないでください」

「分かってる」

「写しを持って出る必要はありません」

サナは手を止めた。

「持たない方がいい?」

「はい。持つ人間が増えれば、狙われる人間も増えます」

サナは控えを見た。

悔しそうな顔だった。

けれど、すぐに頷いた。

「分かった。順序は覚えてる。札が差し替えられた時間も、元札がないことになっていたことも」

「それで十分です」

女将はユイの肩に手を置いた。

ユイは詰所の入口から中を見ていた。中へ入ろうとはしない。ミナと思われる少女を見ているのに、近づけない。

リオはユイの方へ歩いた。

「ユイさん」

「はい」

「薬屋へは、今すぐ戻せません」

ユイは目を上げた。

「……見られたからですか」

「はい」

「さっきの人に」

「はい」

ユイは布袋を握り直した。

「私、名前を呼びかけました」

「聞こえています」

「最後まで言わなかったのに」

「反応は見られました」

責める声ではなかった。

その方が、ユイにはつらかった。

「私、薬屋に戻れないんですか」

リオはすぐには答えなかった。

詰所の中で、ミナと思われる少女が小さく咳をした。ユイの肩が動く。

「少なくとも、今夜は」

ユイは町の方を見た。

南門の内側には、ルドエンの灯りが並んでいる。昼間は近く見えた灯りが、今は少し遠かった。

「おばあちゃんに、知らせないと」

「知らせます」

「私が行ったら」

「危険が増えます」

ユイは口を閉じた。

分かっていた。

分かっているから、返せなかった。

ミナと思われる少女が、目を少しだけ開いた。

視線は定まらない。だが、入口に立つユイの方へ向こうとしている。

ユイは一歩だけ近づいた。

リオは止めなかった。

「ミナ」

少女の唇が動いた。

音は小さすぎて、最初は誰にも届かなかった。

ユイが膝をつき、距離を保ったまま耳を近づける。

少女はもう一度、かすかに言った。

「……ミナ」

ユイは目を閉じた。

リオはそれ以上、名を聞かなかった。

「水を、もう少し」

サナが布を濡らす。

少女は目を閉じたまま、片翼の鳥の布切れを握っていた。

門番が入口から言った。

「今夜は、このまま出せない」

リオは頷いた。

「はい」

「朝になれば、役場が来る」

「来るでしょう」

「面倒になる」

「すでになっています」

門番は少しだけリオを見た。

「補助員にしては、慣れてるな」

リオは答えなかった。

門番は鼻を鳴らした。

「まあいい。今夜は通さない。それだけだ」

「十分です」

詰所の外に出ると、夜気が冷たかった。

南門の外の道は暗く、外套の男が去った方角はもう見えない。

だが、いなくなったわけではなかった。

リオはそれを言葉にはしなかった。

門の内側には、ルドエンの灯りがある。

灯りは変わらず、町を明るく見せていた。

その灯りの中へ、ユイをそのまま戻すことはできない。

女将が低く言った。

「ここで立ってる場合じゃないね」

リオは頷いた。

「まず、人目から外れます。薬屋へ知らせを出します」

「うちの裏口なら、通りから見えない」

「安全ではありません」

「分かってるよ。見えないだけだ」

「それで十分です。今は」

サナが詰所から出てきた。

「私は」

「サナさんも、今夜は荷預かり所へ戻らないでください」

「……分かった」

「持つものは増やさないでください。覚えている順序だけで十分です」

サナは頷いた。

女将がリオを見た。

「私は?」

「赤屋根亭から廃材は出していない。その一点だけ、必要な時に言ってください」

「それだけでいいのかい」

「それ以上は危険が増えます」

女将は少しだけ黙り、頷いた。

「分かった」

ユイは薬屋の方角を見た。

「リオさん」

「はい」

「明日になれば、戻れますか」

「明日、判断します」

「戻れる場合と、戻れない場合があるんですね」

「はい」

ユイは笑わなかった。

「リオさんは、正直ですね」

「嘘をつく場面ではありません」

「そうですね」

それだけ言って、ユイは黙った。

女将が低く言った。

「うちへ来な。裏口から入れば、表の客には見えない」

リオは女将を見た。

「一時的に、です」

「分かってる。安全な場所なんて言わないよ」

「薬屋へ知らせを出してから、次を判断します」

「それでいい」

ユイはもう一度、薬屋の方角を見た。

「おばあちゃんに」

「知らせます」

リオは言った。

「あなたは、今は戻らないでください」

ユイは頷けなかった。

それでも、足は薬屋の方へ動かなかった。

サナは控えを門番へ戻した。

「原本はここに置く。持ち出さない」

門番が言った。

「最初からそうしろ」

「最初は、そこまで度胸なかった」

「さっきはあっただろ」

「あれは、控え一枚分です」

門番はそれ以上、言わなかった。

その短いやり取りの後、夜はまた静かになった。

ミナと思われる少女は、詰所の中で毛布に包まれている。南方へ出るはずだった荷は止まった。赤屋根亭廃材の札は、机の上に置かれている。

けれど、署名欄はまだ空だった。

誰の名前も、そこには書かれていない。

リオは空欄を見た。

今夜、荷は止まった。

だが、誰がその欄を空けさせたのかは、まだ分からない。

「行きましょう」

リオが言うと、ユイは少し遅れて顔を上げた。

赤屋根亭へ向かうためではない。

まず、人目から外れるためだった。

南門の内側へ戻る道で、ユイは一度だけ振り返った。

詰所の灯りは小さい。

町の灯りの方が、ずっと多い。

それでも今夜、ユイが戻る場所は、まだ決まっていなかった。

薬屋へ戻れないことだけが、先に決まっていた。

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### QO OBSERVATION FILE
#### 1-9 荷の中の名

提出者:リオ
任務上の表示身分:領主府補助員
実所属:Quiet Observation / 外部観測任務
観測対象:ルドエン南門/赤屋根亭廃材名義荷/南門詰所
機密度:高
提出区分:緊急観測報告/人物保護・証言者危険化記録


#### 1. 概要

本節では、南門で停止された「赤屋根亭廃材」名義の木箱を開封し、内部に人物が入れられていたことを確認した。

木箱内部の人物は若年女性。
衰弱状態にあり、乾いた唇、浅い呼吸、灯りを避ける反応、右手甲の古い傷を確認した。

ユイは、右手甲の傷および過去の薬届けの記憶から、当該人物が半年前に薬を届けた少女である可能性を認識した。
また、呼び名「ミナ」に反応があった。

ただし、本節時点では、当該人物を正式にミナ・ロウ本人と断定しない。
また、ミナ・クレイアであるとの確定も行わない。

当該人物は南門詰所へ一時保護された。
同時に、ユイは1-8時点で外套の男に視認されており、本節で危険対象として扱う必要が明確化した。


#### 2. 開封前の現場状態

場所:ルドエン南門
対象荷:赤屋根亭廃材名義の木箱
状態:

- 赤紐で固定
- 古い布で覆われている
- 署名欄空白
- 受取人氏名なし
- 元札不在扱い
- 南方預けに関する裏面記載あり
- 赤屋根亭側は廃材搬出を否認
- 内部から浅い呼吸音あり

木箱開封前、現場の主導権は門番が握った。
門番は署名不備と門通過規則を根拠に、現場開封を命じた。

確認発言:

- 「開けろ。今ここで」
- 「署名のない荷を門から出す方が勝手だ」

この判断により、当該荷は門外へ出されず、現場確認へ移行した。


#### 3. 赤紐・荷札の状態

リオは赤紐の切断を避け、結び目を残すよう要求した。

理由:

- 結び方から処理者または処理手順を確認できる可能性がある
- 後続調査で、荷の偽装方法を照合できる
- 切断すると、封の状態が失われる

赤紐は、通常の荷運搬に適した結び方ではなく、外見を整えるための結び方と見られる。
これは、荷を長距離運搬する実務よりも、門通過時の外観偽装を優先した処理である可能性がある。

荷札表面:赤屋根亭廃材
荷札裏面:一部判読可能
判読内容:南方……預け
その他:擦れにより不明部分あり

「廃材」名義と「南方預け」の記載は整合しない。
廃材名義でありながら受取先が存在する点は、人物移送の偽装荷である疑いを強める。


#### 4. 木箱内部の人物

開封により、木箱内部に若年女性を確認。

状態:

- 膝を抱えるように横向きに詰められていた
- 肩に古い外套
- 顔に汚れ
- 唇の乾燥
- 灯りを直視できない
- 右手甲に古い傷
- 呼吸は浅い
- 意識はあるが反応は弱い
- 長時間箱内にいた可能性あり

木箱内には、空気が入るよう片側に削り加工があった。
釘は打たれていない。

この構造は、内部人物を即死させないための処置と見られる。
ただし、保護目的とは言い難い。
人を荷として移動させるための最低限の生存維持処理である可能性が高い。


#### 5. 初期対応

リオは箱内部の人物に対し、すぐに尋問を行わず、以下を優先した。

- 意識確認
- 水分補給
- 直接接触前の反応確認
- 灯りへの反応確認
- 無理な起立を避ける
- 担架移送
- 水と毛布の確保
- 食事を急がせない

確認発言:

- 「聞こえますか」
- 「水は飲めますか」
- 「水を少しずつ。食べ物は急がないでください」

当該人物は水をわずかに吸う反応を示した。
現時点では、長い証言を求める状態ではない。


#### 6. ユイによる確認

ユイは、木箱内部の人物の右手甲にある古い傷を確認し、半年前に薬を届けた少女と同一人物である可能性を示した。

確認発言:

- 「半年前、薬を届けた子と同じです」

1-8時点でユイは外套の男に視認されているため、本節では不用意に声を出さない様子が確認された。
これは、ユイ自身が自分の反応が危険に繋がったことを理解し始めているためと見られる。

リオは「ミナ」と呼びかけ、内部人物の反応を確認した。

反応:

- 「ミナ」への反応:箱の底を小さく掴む
- 「ミナ・ロウ」への反応:わずかな混乱

この反応から、内部人物は「ミナ」という呼び名に反応する可能性が高い。
一方で、「ミナ・ロウ」という記録名に対しては明確な肯定反応を示していない。

現時点で、当該人物がミナ・ロウ本人である可能性は高いが、断定は避ける。
また、ミナ・クレイアであるかは未確定。


#### 7. 片翼の鳥の布片

木箱から人物を出す際、布の下から小さな包みが落下した。

内容:

- 古い布切れ
- 片翼の鳥の刺繍の一部
- 切り取られ、擦れ、何度も握られた跡あり
- 完全な印ではない

内部人物は、その布へ手を伸ばした。
リオは当該布片を証拠として即時回収せず、内部人物の手元へ戻した。

判断理由:

- 当該人物の心理的安定を優先
- 身元確認に関わる可能性はあるが、現時点で強制回収すべき段階ではない
- 証拠保全よりも生存・安定が優先される状態

当該布片は、クレイア家または旧クレイア預地に関わる印である可能性がある。
ただし、本節時点では正式確認未了。


#### 8. 外套の男の退去

木箱開封後、外套の男は現場から退いた。

確認された行動:

- 一歩下がる
- 馬の手綱を取る
- 急がず退く
- 門番の呼び止めに応じない
- 「道を間違えただけだ」と発言
- 最後にユイを再度見る

外套の男は逃走したというより、当夜の荷の搬出を諦め、次の手へ移ったと見られる。
リオは追跡可能な距離にいたが、追わなかった。

理由:

- 木箱内部の人物が未保護状態
- ユイが既に視認され危険対象化している
- サナと女将も現場にいる
- 原本・荷札・赤紐の保全が必要
- 門番の通行停止判断を維持する必要がある

現時点で、外套の男の所属は未確定。
ただし、搬出側の中核または現場判断者である可能性が高い。


#### 9. 下働き・運搬関係者

若い下働きは、木箱内部の人物を見て動揺した。

確認発言:

- 「俺は、中身を知らなかった」

門番はこれに対し、以下の判断をした。

- 「なら、今知った」
- 詰所に残す
- 当該人物の状態を確認させる

若い下働きは、完全な共犯ではなく、荷の実体を知らされていなかった可能性がある。
ただし、署名欄空白の荷を搬出しようとしていたため、責任がないとは言えない。

年上の男は「上からだ」と発言したが、上位者名を明かさなかった。
サナが「町財務副役ですか」と問うと、一瞬反応を示した。

この反応から、町財務副役が関与している可能性がある。
ただし、現時点では証言・署名・直接記録が不足している。


#### 10. 南門詰所への一時保護

内部人物は担架で南門詰所へ移された。

詰所の状態:

- 狭い
- 古い机あり
- 毛布二枚
- 小さな炭火あり
- 長期保護には不向き

門番は「ここで長く置く場所じゃない」と発言。
リオもこれを認めた。

ただし、夜間に別場所へ移すより、当面は詰所での保護が最も安全と判断した。

理由:

- 門番が通行停止判断をした場所である
- 荷が通されなかった証拠と近い
- 原本・荷札・赤紐を保全しやすい
- 役場が朝まで即時介入しにくい
- 木箱内人物を再移送される危険を減らせる


#### 11. サナの扱い

サナは南方引き渡し控え、破損控え、差し替え済み処理を確認した。

当初、控えの写しを取る動きがあったが、リオは写しを持ち出させない判断をした。

理由:

- 物証を持つ人間が増えると、狙われる人間も増える
- サナはすでに現場で控えを確認しており、記憶証言で十分な段階
- 原本は南門詰所に残す方がよい
- サナを物証保持者にしないことで危険を減らす

サナに求める役割:

- 荷札差し替えの時刻を記憶する
- 元札がない扱いになっていたことを記憶する
- 署名欄・受取欄の欠落を記憶する
- どの控えを誰が見たかを説明できるようにする

サナは、危険側に入った可能性があるため、当夜は荷預かり所へ戻さない方がよい。


#### 12. 赤屋根亭の女将の扱い

女将は、赤屋根亭から廃材を出していないことを証言できる。

女将に求める役割は以下に限定する。

- 赤屋根亭廃材名義の否認
- ユイを一時的に人目から外す場所の提供
- 宿側として、廃材搬出が虚偽であると説明すること

女将に荷札・写し・控え等の物証を持たせるべきではない。
女将はすでに現場に立ち会っているため、これ以上深く巻き込むことは避ける。

リオ判断:

- 女将は協力者ではあるが、物証保持者にはしない
- 必要証言は「赤屋根亭から廃材は出していない」の一点に絞る
- 赤屋根亭は安全地帯ではなく、一時的に人目から外れる場所として扱う


#### 13. ユイの危険化

ユイは1-8時点で、木箱内部の音に反応しかけたところを外套の男に視認された。
1-9では、その危険がより明確になった。

確認された状態:

- 木箱内人物に強く反応
- 右手甲の傷を確認
- 半年前に薬を届けた少女と一致する可能性を認識
- 「ミナ」という呼び名と内部人物の反応を目撃
- 外套の男に顔を覚えられた可能性が高い

ユイは薬屋へ戻れば、以下が一つに繋がる恐れがある。

- 半年前の薬届け
- 薬屋の控え
- 木箱内人物の確認
- ミナという呼び名
- 片翼の鳥の布片
- 南門での目撃

そのため、ユイを薬屋へ即時帰還させることは危険。

判断:

- 少なくとも今夜は薬屋へ戻せない
- 薬屋の祖母へ連絡が必要
- ユイ本人は人目から外す
- 今後は保護すべき現地協力者・証言者として扱う


#### 14. 内部人物の名について

詰所内で、ユイが距離を保って「ミナ」と呼びかけた。
当該人物はかすかに「ミナ」と発した。

このため、当該人物がミナと呼ばれていた可能性は高い。

ただし、以下は未確定。

- ミナ・ロウ本人であるか
- ミナ・クレイアであるか
- ロウ姓が保護名・偽名・再登録名であるか
- クレイア家との血縁・庇護関係
- クレイア預地から現在の移送までの経路

現時点で、本文上・報告上ともに「ミナと思われる少女」「ミナと呼ばれた少女」として扱うのが適切。


#### 15. 門番の対応

門番は、以下の判断を行った。

- 署名欄空白の荷を通さない
- 赤屋根亭廃材名義の不一致を問題視
- 人物入りの木箱を確認後、荷の通行を停止
- 詰所への一時保護を認める
- 原本を詰所に残す
- 若い下働きを詰所に残す
- 朝の役場介入を予測

門番は積極的な正義の人物ではなく、門の規則に従って動いた人物である。
ただし、その規則判断により、当該人物の南方搬出は阻止された。

門番の通行停止判断は、今後の重要証言となる。


#### 16. リオの判断

本節におけるリオの判断は以下。

1. 赤紐を切らず、結び目を保全
2. 荷札裏面の確認をサナに依頼
3. 木箱内部人物の生存確認を優先
4. 尋問より水分補給を優先
5. ミナ・ロウ/ミナ・クレイアの断定を避ける
6. 片翼の鳥の布片を強制回収しない
7. 外套の男を追跡しない
8. 原本を詰所に残す
9. 一般人に物証を持たせすぎない
10. ユイを薬屋へ即時帰還させない
11. 赤屋根亭を安全地帯ではなく、一時的な視線遮断場所として扱う

リオは、現場の犯人追跡よりも、人物保護・証拠保全・証言者保護を優先した。


#### 17. 未解決事項

以下は本節時点で未解決。

- 木箱内人物の正式身元
- ミナ・ロウとの正式一致
- ミナ・クレイアであるか
- 片翼の鳥の布片の由来
- 赤紐処理を行った人物
- 荷札を差し替えた人物
- 元札を消した人物
- 署名欄を空白にした人物
- 町財務副役の関与範囲
- 役場上層の関与範囲
- 領主府の関与有無
- 南方受け取り先
- 外套の男の所属
- 薬屋への圧力可能性
- ユイの継続保護方針
- サナおよび女将の安全確保
- 門番が朝まで原本を保全できるか


#### 18. 次行動

即時対応:

- ミナと思われる少女を南門詰所で一時保護
- 水分補給
- 毛布による保温
- 食事は急がせない
- 長い証言は取らない
- 原本・赤紐・荷札・控えを詰所に残す
- サナに物証を持たせない
- 女将に物証を持たせない
- ユイを人目から外す
- 薬屋の祖母へ連絡
- ユイを薬屋へ戻さない

短期対応:

- 朝の役場介入前にユイの保護方針を決定
- 薬屋の祖母の判断確認
- サナの安全確認
- 女将の証言範囲を限定
- 門番から通行停止判断を確認
- 若い下働きへの追加聞き取り
- 年上の男の上位指示元確認
- 外套の男の特徴記録
- 町財務副役の動向確認

継続対応:

- ミナと思われる少女の身元確認
- 薬屋控えとの照合
- クレイア預地記録との照合
- 片翼の鳥の印の再確認
- 南方移送経路の調査
- 領主府関与の有無を慎重に確認


#### 19. 提出上の注意

本報告は、木箱内部人物の保護直後の緊急観測記録である。

本節時点で、当該人物をミナ・ロウ本人と断定してはならない。
また、ミナ・クレイアであると断定してはならない。

ただし、当該人物が「ミナ」と呼ばれていた可能性は高い。
また、ユイが過去に薬を届けた少女と同一人物である可能性も高い。

ユイは、外套の男に視認された時点で危険対象となった。
以後、一般同行者ではなく、保護すべき現地協力者・証言者として扱う必要がある。

QOの実所属は、現場関係者には明かしていない。
引き続き、領主府補助員の表示身分を維持する。

本件は、単独の不正搬出ではなく、記録処理・荷札差し替え・署名欄空白化・南方受け取り先を伴う組織的移送の可能性が高い。
ルドエン内の局所事件として処理せず、背後にある役場・町財務副役・領主府関係の動向を継続観測すること。