あらすじ
各地を旅しながら、環境、街道、人の動き、記録の食い違いを観測するリオ。
彼女の所属は、自然観測を表向きの任務としながら、各地の情報隠蔽、記録改変、異常現象を調査する組織――Quiet Observation。
任務先では、土地や国に合わせて身分を変える。
役人の補助、旅の記録者、商隊の同行者、調査員。その土地で最も疑われにくい立場を使い、正体を明かさずに観測を続けている。
北方の宿場町ルドエンで、リオが名乗るのは領主府補助員。
そこで彼女は、一人の少女の通行記録に目を留める。
ミナ・ロウ。
北門から町へ入り、翌朝には南門から出たとされる少女。しかし、その出身地であるクレイア村は地図に存在せず、町の記録には、名前を記す代わりに短い横線で閉じられた欄が残されていた。
灯祭を前に明るさを増していく町で、リオは薬屋の娘ユイと出会う。
旅人へ灯りを渡し、祈りが届くことを願うルドエン。その穏やかな習慣の裏で、誰かが人と荷の名前を消し、南へ送り出していた。
リオは領主府補助員という仮の立場を保ったまま、町に残された小さな不一致を追い始める。
やがてその調査は、一人の少女の救出だけでは終わらない。
町の役人、領主府、旧家クレイア、南方へ続く移送網。そして、記録から消された人々をめぐる、より大きな情報の争いへとつながっていく。
土地ごとに名乗る立場を変えながら、武力ではなく、観測と交渉、記録と情報によって世界を動かしていく。
これは、正体を隠した一人の観測者が、各地の小さな矛盾を拾い上げ、やがて世界の均衡そのものを変えていく旅の物語。